「小さなリース」

「小さなリース」


1960年代から80年代まで、ルーマニアでチャウシェスクという独裁者が猛威を振るい、その彼の政権の下で働いていたカロルという将軍の実話を元に作られた「小さなリース」という絵本があります。


カロル将軍は独裁的に人々を支配していて、「俺は世界で一番偉いのだ。俺の言うことを聞かない奴は誰だ」といつも大きな声でどなり散らしていました。また自分の気に食わない人を探し出しては、牢屋に投げ込み、たくさんの人を牢屋に連れて行きました。


 さらに将軍は兵達たちには「おい、お前たち、国や世界で一番偉いのは誰だ」と問い、彼らは本当は将軍のことが大嫌いでしたが、「それはカロル様です」と従いました。


 ある日、カロル将軍が家に帰ると家の門に小さな花のリースが飾ってありました。こんなことは初めてで、将軍はびっくりして「誰だ。俺の門に花なんか置いていく奴は。どうせ、誰かの家と間違えたのだろう」と荒々しく花を地面に叩きつけ、足で踏んづけました。


ところが次の日も、また次の日も、毎日、毎日、カロル将軍の家の門には美しい花のリースが飾ってありました。


 カロル将軍は自分に花をプレゼントしてくれる人などいるはずないと思っていて、『一体誰だろう、俺の門に花を置いていく奴は』とは不思議でたまりませんでした。しかし、内心はうれしくてたまりませんでした。


カロル将軍が『よし、今日こそは誰が花を持ってくるか突き止めてやるぞ』と隠れてこっそり見ていると小さな女の子が向こうからやってきました。将軍は「おい!そこで何をしている?お前だな、いつもいつも俺の門に花を置く奴は。何でそんなことをするのだ。子どものくせに生意気なやつだ」と大きな声でどなりました。


 すると女の子はペンダントを開いて、カロル将軍に見せて「私のパパとママはあなたに捕まって牢屋に入れられました。そしてそこで死んでしまったのです。私はずっとあなたのことが大嫌いでした。でもある日、パパとママがいつも言っていたことを思い出したのです。『あなたの敵を愛しなさい』って…だからね。いじめられても赦してあげよう。優しくしてあげようって思ったの」と言いました。


将軍は「それでお前、俺に花を…」と言い、女の子は小さくうなずき、「でももうあなたは敵じゃないわ。こうしてお話できたのだから。私たちはお友達よね」とにっこり笑って帰っていきました。


 カロル将軍は家に入ると泣き叫び、涙があとからあとからどんどんこぼれてきて、『俺は今までみんなを苦しめてきた。これからは人を幸せにするために生きよう。優しい人間になろう』と決心しました。


 その夜、カロル将軍はとっても幸せな気分で、それから間もなく将軍はみんなから「カロルさん」と慕われるようになり、この国はとても平和で幸せな国になったのでした。

 

「人を幸せにするために生きよう。優しい人間になろう」

 

悔い改めたカロル将軍は正に「人間は弱いものだ。たった一人の人の優しさにでも触れることができたなら、 侘しい人生が次第に喜びの人生へと、変えられていくのだ」(三浦綾子『明日のあなたへ』)ということを表していると言えるでしょう。


今は亡き、柴田トヨさんの『貯金』(詩集「くじけないで」)の詩の「やさしさの貯金」も改心したカロル将軍の心情とも重なり合うかもしれません。


私ね 人から
やさしさを貰(もら)ったら
心に貯金をしておくの

さびしくなった時には
それを引き出して
元気になる

あなたも 今から
積んでおきなさい
年金より 
いいわよ」

 

聖書においても「めいめい自分のことだけでなく、他人のことにも注意を払いなさい」(フィリピ2:4)、口語訳では「おのおの、自分のことばかりでなく、他人のことも考えなさい」、新改訳では「自分のことだけではなく、他の人のことも顧みなさい」「また、だれをもそしらず、争わず、柔和で、すべての人に優しい態度を示す者とならせなさい」テトス3:2 新改訳)と記されています。


実践的には難しいですが、私たちは「小さなリース」から女の子の「赦し」を学ぶと共に「やさしさ」の貯蓄をして、「人を幸せにするために生きよう。優しい人間になろう」という目標をもって、生きていきたいものです。

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